生命保険は相続財産?
「相続は、死亡によって開始する。」
このシンプルで、リズミカルな民法の条文(民法882条)によって、人が亡くなると相続が開始することとなります。
“相続が開始する”というのは、簡単に言いますと、亡くなった方(被相続人といいます)の財産が、その相続人に承継され、そのまま相続人に移転する、ということです。「遺言があれば、基本的にはその内容にそって、なければ民法に定められた法定相続分に従って、「あるいは相続人がみんなで協議した内容で、相続財産が承継されることになるのです。
それでは、相続財産とは一体何でしょうか。
被相続人が生前、自ら築き上げ、コツコツと貯めてきた財産は、全て相続財産の対象となって、上記のように法定相続人に承継されるのでしょうか。
例えば、被相続人が生前に持っていた国家資格や受け取っていた文化功労者年金等は、その被相続人の“一身に専属するもの”として、相続の対象となることはなく、相続が開始しても相続人に承継されることはありません。
では、被相続人が保険料を支払ってきた生命保険についてはどうでしょうか。
ある家で、お父さんが亡くなって、相続が開始しました。お父さんは特に遺言を書いていなかったので、相続人であるお母さんと二人の娘さんは、遺産分割協議をして、お父さんが遺してくれた財産を分けることにしました。
お父さんは生前、自分を被保険者、お母さんを受取人にして、生命保険を契約し、毎月一定額の保険料を支払っていました。お父さんが亡くなったことにより、保険会社から多額の保険金がお母さんに入ってきました。
この保険金は、二人の娘さんには、相続人として受け取る権利は全くないのでしょうか。
この場合、保険会社から支払われた保険金は、お母さんの固有の財産ということになり、相続財産としてお母さんと娘さんたちが遺産分割協議によってわける財産には入ってきません。
したがって、娘さんたちは、この保険金に対しては、自分たちの権利を主張することは基本的にはできない、ということになります。
ちなみに、遺産分割協議の対象となる本来の相続財産ではないものの、相続税の計算では「みなし相続財産」となり、相続税の課税対象に加算されますので、この点は注意が必要です。
それでは、お父さんが契約し、お母さんを被保険者、お父さん自身を受取人として、お父さんが保険料を支払ってきた終身保険は、どうなるのでしょうか。
こちらの方は、遺産分割の対象となる相続財産に含まれます。
被保険者はお母さんですので、お母さんに死亡という保険事故が起こっていない以上、この終身保険という商品の価値は、相続人に承継されることになります。
具体的には、遺産分割協議によって契約者であるお父さんを別の人(例えば娘さんの一人)に変更して保険を続けるか、解約して、解約返戻金(保険を解約すると戻ってくるお金)を受け取って、それを遺産分割協議により分ける、等ということになります。
実際には、保険料の支払いが続いているのかどうか、契約内容がどうなっているのか、どのような特約が付いているのか等、確認すべき事項がいろいろあるかと思いますので、保険会社の人とも相談して、相続人同士で保険契約をどうするかを決めていく必要があるでしょう。