思いを確実に実現するため、動画で遺言を撮っておきたい。動画の遺言は有効?
ご相談内容
【Q】
事務所を訪れた相談者のAさん。お母様が余命半年と宣告され、病床で遺言をしておきたいと言っているのですが、最近は起き上がるのも大変で、文字を書くこともままならないとのこと。それでも意識はしっかりしていて、できるだけ確実に遺言をすることを希望されているそうです。
そこで、Aさんは、お母様の思いを動画に録画しておきたいと考えました。
「動画でとっておけば本人の意思であることは誰が見ても確認できるし、話すだけなら文字を書きづらい母でもなんとか残しておける!」と考えたそうです。
このような動画による遺言は、有効でしょうか?
【A】
Aさんのお母様は、体力的に文字を書くことが難しいので、動画で撮っておけば簡単だし、間違いない!というのは、いいアイディアですが、残念ながら民法上は、ビデオによる遺言は認められていません。 遺言は必ず書面で遺さなければならないとされています。
民法上、遺言の形式は法定されており、自由な形式で遺言をすることはできません。また動画は、編集される危険があって、信頼性にも問題があるとされています。
それでは、Aさんのお母様のような場合はどうしたらいいのでしょうか。
事務所の対応
文字を書くことが可能であれば、すべてを自筆し、日付と署名捺印をする自筆証書遺言という方法が考えられます。相続開始後、家庭裁判所の検認を受けることにより、有効な遺言となります。ただ、遺言は可能であれば、きちんとした内容で、公正証書で作成しておくことが、遺言者の思いを実現するためには、最も確実です。
Aさんのお母様の場合は、文字を書くことが大変厳しいという状況で、自筆証書の作成は難しそうでした。ただ、お母様には土地建物等の財産をAさんに残したい、その代わり他の兄弟には、預金や有価証券からこのくらいの財産を遺したいという具体的な意思がありました。
文字を書くのは大変ですが、本人にそれなりにまとまった時間聞き取りをして、考えをまとめさせることは不可能ではなく、むしろそれをご本人も望んでいるということでしたので、公正証書遺言を作成することにしました。
Aさんのご意思をうかがい、その願いに沿った内容で文書を、当方で作成し、Aさんにも中身を確認してもらいます。並行して公証役場ともやり取りして、Aさんの都合のいいときに公証人にAさんとお母様の住むご自宅に公証人に出張してもらうことにしました。
その日は二人の証人を立て、公正証書として、無事に思い通りの遺言を作成することができました。
まとめ
どのような形式の遺言を作成するかは、遺言者それぞれのご事情によりケースバイケースですが、有効に遺言内容を実現するためには、法定の形式に沿ったものを作ることが必要です。なるべく、公正証書で遺言を作成することが確実ですが、状況によっては、自筆証書で作成することが必要な場面もあるでしょう。
ちなみに、民法では「死亡の危急に迫ったものの遺言」というものが法定されていて、口頭による遺言が認められていますが、これは証人3人以上の立会が必要のうえ、さらに承認がきちんと書面を作成しなければ有効とならず、あまり現実的ではありません。
どのような遺言を作成するのがいいのか分からない、とか、自分一人では遺言の作成は難しそうだ、という場合は、ぜひ森下法務事務所にご相談ください。